去年7月、奈良県安堵町で住宅火災が発生。消防車など19台が出動しましたが、住宅のかやぶき屋根など約60平方メートルが焼けました。けが人はいませんでした。
火災が起きたのは、江戸時代初期の1659年に建てられた「中家(なかけ)住宅」。武士が住んでいた屋敷の姿をそのまま残す貴重な建造物として国の重要文化財に指定され、地元住民らに親しまれてきました。
歴史ある建物が焼損した今回の火災。原因は近所の「たき火」とみられていて、中家住宅の住人は「腹が立って仕方がない」と憤っています。
『吉田兼好ゆかりの屏風』『日本一古い梅干し』が…
火災から3か月後の去年10月、取材班は中家住宅を訪ねました。話を聞いたのは、この家に住む中八代さん(62)。中家は21代目で、350年以上住宅を守ってきました。
(中八代さん)「ちょうど『大和棟』と言われるとてもきれいなかやぶきの屋根があったんです。かやの部分がほとんどもう燃え落ちてしまっています」
数年前に張り替えたばかりだったというかやぶき屋根は跡形もない状態に。建物の中から見ると、屋根組みにぽっかりと大きな穴が空いていました。
被害は火によるものだけではありません。12時間以上続いた消火活動により室内が水浸しになったのです。白い壁は茶色く汚れ、屋根を支える梁には大量のカビが生えていました。
(中八代さん)「次の日の朝来たら、全部水浸し。奥には5部屋ありまして、全部畳が敷いてありましたが、畳の一部は焼けて、一部は水浸しで。暑い時期に水が入ると、すぐにカビが生えてきて。家財道具・机・いす・たんす・じゅうたん、全部がダメになってしまって」
中家住宅には、先祖代々受け継がれてきた貴重な骨董品も数多くありました。例えば、400年前につけられ、“日本一古い”という梅干し。焼け落ちた天井の瓦が当たり、壺ごと破損しました。屋敷には吉田兼好らが書いたとされる貴重な屏風もありましたが…
(中八代さん)「ひどい状態になってしまいました。もう腹が立って仕方がないです。数時間前までの家とは大違いで、最初見た時は涙も出なかったんですけど、後でじわじわと被害のひどさにいら立ちと憤りと悔しさと悲しさと、もういろんな思いが出てきました」
近隣住民による『たき火』が原因か「20回くらいやっていた」
なぜ火災が起きたのか。当時、中家住宅の“少し離れたところ”でも煙が上がっていました。警察は、この場所で枯れ草が燃やされ火災が発生し、その後、中家住宅に火の粉が燃え移ったとみています。実は、この場所でのたき火は初めてではありませんでした。
おととし11月には、茂みの奥で炎が上がっている様子を中さんが撮影していました。
(中八代さん)「(過去2年間で)20回くらいはやっていたと思います。そのつど注意したり、『困るからやめてほしい』とか『もうちょっと小さな火にしてほしい』とか、消防からも言っていただいたり…。それで、なおかつ燃やしてたんですよね」
たき火をしていたのは近所の人で、注意をしてもやめなかったといいます。中さんは行政にも相談し、職員が直接やめるよう伝えていました。
(安堵町 住民生活部 吉田彰宏課長)「軽微なものでも『なんか燃やしていて臭い』という連絡がありましたら、現地に赴いて、小さい町なのですぐに動いております」
(安堵町 事業部 榧木純一さん)「『必ず火事のもとになるのでやめてください』というお話をさせていただきました。(Qそれにもかかわらず火災が起きたことは?)非常に悔しいですね、正直なところ。安堵町の数少ない重要文化財のひとつなので。火のもとも含めて、細心の注意を払ってそこに住むべきだと」
火災から7か月が過ぎ、今年3月6日、警察の捜査が一つの区切りを迎えました。警察は、たき火に関わっていた近くの住民の男女2人(50代)を重過失失火容疑で書類送検しました。火の確認を怠り、その場を離れた重大な過失により火の粉が燃え移った疑いが持たれています。
MBSの取材に対し、書類送検された男性は「たき火がぶわーっと燃えていくところを見ているわけでもないから、本当にわからない」と話し、注意を続けてきたという中さんや町の話については、「(中さんに)特に注意をされたわけではない。(町から)燃やすなと言われなかった」と答えました。そして、男性はもう1人の女性について、「火の確認を怠ってはいないと思う」と言い、女性本人は、取材には「答えられない」と話しました。
修復費用は約5億円…所有者負担は約2500万円
中さんと夫の寧さんは、中家住宅の再建に向けて動き出しています。修復費用をクラウドファンディングでまかなおうとしていて、今年1月、県内の観光案内所を訪れました。
(中八代さん)「火災の後、修復にずいぶん費用がかかりますので…。チラシを100部お持ちしました」
文化庁や県の試算では、修復費用は総額約5億円。そのうち95%は国・県・町でまかないますが、残り5%、約2500万円は所有者の負担となるのです。
(中寧さん)「今は物価高なので、修復途中に費用が上がることもあるとおっしゃっていた。それが本当にどこまで上がるんだろうと心配しています」
(中八代さん)「何度もたき火をして後始末もしなかった、その結果がこんなことになった。なぜこんなことが起こらないといけなかったのか、まだわからない部分が多いので、本当に悔やまれます」
中家住宅は4年後には修復が終わり生まれ変わる予定です。しかし、一度失った物や思い出が元に戻ることは決してありません。
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